標準原価計算の差異分析は「標準−実際」で計算します。プラスなら有利差異(貸方差異)、マイナスなら不利差異(借方差異)です。直接材料費は価格差異と数量差異、直接労務費は賃率差異と時間差異、製造間接費は予算・能率・操業度差異に分けます。この記事では1つの設例で、標準原価カードから7つの差異までを検算つきで出します。パーシャルプランとシングルプランで差異がどの勘定に出るかも確認します。
この記事の内容を動画で解説しています(簿記2級 #58・8:33)
8:33【簿記2級】ボックス図で差異分析|価格差異・数量差異・賃率差異・時間差異差異分析の全体像と大原則 / 通し設例 ── この数字で最後まで▶ YouTubeで見る差異分析とは?「標準−実際」の符号で有利・不利が決まる
標準原価計算では、あらかじめ決めた「あるべき原価」(標準原価)で製品の原価を計算します。実際にかかった原価との差が原価差異です。差異分析とは、その差を「単価が高かったのか」「使いすぎたのか」のように原因別に分けることです。
| 標準−実際の結果 | 意味 | 呼び方 | 仕訳での位置 |
|---|---|---|---|
| プラス | 実際が標準より少なく済んだ | 有利差異 | 貸方差異 |
| マイナス | 実際が標準より多くかかった | 不利差異 | 借方差異 |
不利差異が借方になるのは、標準より多くかかった原価だからです。費用と同じく借方に残り、最後は売上原価を増やします。有利差異は原価が少なく済んだ分なので貸方に残り、売上原価を減らします。
ポイント
差異は「標準側の金額−実際側の金額」で計算します。引く順番を固定すれば、マイナスなら不利(借方)、プラスなら有利(貸方)と機械的に判定できます。
実際原価計算で予定価格や予定賃率を使うときの差異も、同じ考え方です。比べる相手が標準ではなく予定になるだけなので、材料消費価格差異と賃率差異の求め方とあわせて読むと整理しやすくなります。
まず当月の標準原価を出す|標準原価カードと換算量
差異は、当月投入量に対する標準原価と実際原価を比べて出します。完成品の標準原価と比べるのではありません。ここを外すと、7つの差異がすべてずれます。まず製品1個あたりの標準原価を示す標準原価カードを確認します。数字はすべて編集部が作成したものです。
| 費目 | 標準単価 | 標準消費量 | 標準原価 |
|---|---|---|---|
| 直接材料費 | 250円/kg | 6kg | 1,500円 |
| 直接労務費 | 1,000円/時間 | 1.5時間 | 1,500円 |
| 製造間接費 | 800円/時間 | 1.5時間 | 1,200円 |
| 合計 | 4,200円 |
設例
上の標準原価カードを使う工場の当月の資料。材料は工程の始点で投入する。製造間接費は直接作業時間を基準に配賦し、公式法変動予算による(変動費率300円/時間、月間固定費予算1,550,000円、基準操業度3,100時間)。
生産:月初仕掛品200個(加工進捗度50%)、完成品1,800個、月末仕掛品300個(加工進捗度60%)
実際直接材料費:11,600kg×245円=2,842,000円
実際直接労務費:2,900時間×1,010円=2,929,000円
実際製造間接費:2,380,000円
| 当月投入量の計算 | 直接材料費(個数) | 加工費(換算量) |
|---|---|---|
| 完成品 | 1,800個 | 1,800個 |
| +月末仕掛品 | 300個 | 180個(300個×60%) |
| −月初仕掛品 | 200個 | 100個(200個×50%) |
| =当月投入 | 1,900個 | 1,880個 |
当月投入量に標準原価カードの金額を掛けると、当月標準製造費用が出ます。
- 直接材料費:1,900個×1,500円=2,850,000円
- 直接労務費:1,880個×1,500円=2,820,000円
- 製造間接費:1,880個×1,200円=2,256,000円
合計7,926,000円が当月標準製造費用です。実際原価の合計8,151,000円との差、−225,000円(不利)が差異の総額になります。
月初と月末の標準原価も出しておきます。月初は200個×1,500円+100個×2,700円=570,000円、月末は300個×1,500円+180個×2,700円=936,000円です。完成品は1,800個×4,200円=7,560,000円で、月初+当月=完成品+月末(8,496,000円)が成り立ちます。
直接材料費・直接労務費のボックス図|内側が標準、外側が実際
直接材料費と直接労務費は、同じ形のボックス図で分析します。縦に単価、横に数量をとった長方形で、内側(左下)が標準原価、外側が実際原価です。画像の代わりに、描き方の手順を示します。
- 縦軸に単価、横軸に数量(消費量・作業時間)をとる
- 内側に「標準単価×標準数量」の長方形を描く(標準原価)
- 外側に「実際単価×実際数量」の長方形を描く(実際原価)
- 上の帯が単価の差による差異(価格差異・賃率差異)、右の帯が数量の差による差異(数量差異・時間差異)
- 右上の角は、上の帯(価格差異・賃率差異)に含める
右上の角を上の帯に含めるのは、単価の差は実際に使った数量すべてにかかっていると考えるからです。そのため価格差異・賃率差異は「実際数量」を掛け、数量差異・時間差異は「標準単価」を掛けます。
▶ 動画で確認する(3:36〜 直接材料費差異のボックス図)
直接材料費|価格差異と数量差異
標準消費量は、当月投入1,900個×6kg=11,400kgです。実際消費量は11,600kgでした。
| 差異 | 計算式 | 設例 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 価格差異 | (標準単価−実際単価)×実際消費量 | (250−245)×11,600kg=+58,000円 | 有利(貸方) |
| 数量差異 | (標準消費量−実際消費量)×標準単価 | (11,400−11,600)kg×250=−50,000円 | 不利(借方) |
| 合計 | 標準原価−実際原価 | 2,850,000−2,842,000=+8,000円 | 有利(貸方) |
材料は標準より安く買えた(有利)一方で、標準より多く使った(不利)ことが分かります。合計だけを見ると8,000円の有利ですが、分けると「使いすぎ」という改善点が見えます。これが差異分析の目的です。
直接労務費|賃率差異と時間差異
標準直接作業時間は、当月投入の換算量1,880個×1.5時間=2,820時間です。実際は2,900時間かかり、実際賃率は1,010円でした。どちらも標準を上回っているので、ボックス図は外側の長方形が内側をそのまま囲む形になります。
| ボックス図の区画 | 標準時間まで(2,820時間) | 超過分(80時間) |
|---|---|---|
| 上段:賃率の差10円 | 賃率差異 | 賃率差異(右上の角) |
| 下段:標準賃率1,000円 | 標準原価2,820,000円 | 時間差異 |
| 差異 | 計算式 | 設例 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 賃率差異 | (標準賃率−実際賃率)×実際作業時間 | (1,000−1,010)×2,900時間=−29,000円 | 不利(借方) |
| 時間差異 | (標準作業時間−実際作業時間)×標準賃率 | (2,820−2,900)時間×1,000=−80,000円 | 不利(借方) |
| 合計 | 標準原価−実際原価 | 2,820,000−2,929,000=−109,000円 | 不利(借方) |
▶ 動画で確認する(6:23〜 直接労務費差異のボックス図)
製造間接費差異|予算・能率・操業度の3分法
製造間接費は、標準配賦額(標準操業度×標準配賦率)と実際発生額の差を3つに分けます。計算には3種類の操業度を使うので、先に並べておきます。
| 操業度 | 意味 | 設例 |
|---|---|---|
| 基準操業度 | 予算を立てたときの予定の時間 | 3,100時間 |
| 実際操業度 | 実際にかかった直接作業時間 | 2,900時間 |
| 標準操業度 | 当月投入量に対して本来かかるべき時間 | 1,880個×1.5時間=2,820時間 |
| 差異 | 計算式 | 設例 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 予算差異 | 予算許容額−実際発生額 | (300×2,900+1,550,000)−2,380,000=+40,000円 | 有利(貸方) |
| 能率差異 | (標準操業度−実際操業度)×標準配賦率 | (2,820−2,900)×800=−64,000円 | 不利(借方) |
| 操業度差異 | (実際操業度−基準操業度)×固定費率 | (2,900−3,100)×500=−100,000円 | 不利(借方) |
| 合計 | 標準配賦額−実際発生額 | 2,256,000−2,380,000=−124,000円 | 不利(借方) |
固定費率は1,550,000円÷3,100時間=500円、標準配賦率は変動費率300円+固定費率500円=800円です。予算許容額は、実際操業度2,900時間での予算額870,000+1,550,000=2,420,000円です。操業度差異に固定費率だけを掛けるのは、変動費は操業度に合わせて予算も動くため、回収不足が生じるのは固定費だけだからです。
操業度差異だけは、式が「実際操業度−基準操業度」なので引く順番が逆に見えます。金額に直すと、固定費の配賦額(2,900時間×500円)−固定費予算(3,100時間×500円)です。配賦した側から予算の側を引く形なので、ほかの差異と考え方は同じです。マイナスは固定費を配賦しきれなかった(回収不足)という意味で、不利差異になります。
能率差異を変動費率だけで計算し、固定費の部分を操業度差異に含める方法もあります。その場合は能率差異が−24,000円、操業度差異が(2,820−3,100)×500=−140,000円です。合計の−124,000円は変わらないので、問題文の指示に従います。予算許容額の考え方と図の描き方はシュラッター図の書き方で詳しく扱っています。
パーシャルプランとシングルプランの違いは?
日本商工会議所の出題区分表では、2級の標準原価計算の記帳方法としてパーシャルプランとシングルプランが示されています(修正パーシャルプランは1級の論点)。2つの違いは、仕掛品勘定の借方(当月製造費用)を実際原価で書くか、標準原価で書くかです。貸方の完成品と月末仕掛品は、どちらも標準原価で書きます。
| 比べる点 | パーシャルプラン | シングルプラン |
|---|---|---|
| 仕掛品勘定の借方(当月製造費用) | 実際原価 | 標準原価 |
| 仕掛品勘定の貸方(完成品・月末) | 標準原価 | 標準原価 |
| 原価差異が出る勘定 | 仕掛品勘定 | 材料・賃金・製造間接費などの勘定 |
設例の数字で仕掛品勘定を並べます。パーシャルプランでは借方が実際、貸方が標準なので、差額225,000円が原価差異として仕掛品勘定に残ります。
パーシャルプランの仕掛品勘定(単位:円)
| 借方 | 金額(円) | 貸方 | 金額(円) |
|---|---|---|---|
| 月初仕掛品 | 570,000 | 製品 | 7,560,000 |
| 直接材料費 | 2,842,000 | 月末仕掛品 | 936,000 |
| 直接労務費 | 2,929,000 | 原価差異 | 225,000 |
| 製造間接費 | 2,380,000 | ||
| 合計 | 8,721,000 | 合計 | 8,721,000 |
シングルプランの仕掛品勘定(単位:円)
| 借方 | 金額(円) | 貸方 | 金額(円) |
|---|---|---|---|
| 月初仕掛品 | 570,000 | 製品 | 7,560,000 |
| 直接材料費 | 2,850,000 | 月末仕掛品 | 936,000 |
| 直接労務費 | 2,820,000 | ||
| 製造間接費 | 2,256,000 | ||
| 合計 | 8,496,000 | 合計 | 8,496,000 |
パーシャルプラン:仕掛品勘定の差異を振り替える(単位:円)
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 原価差異 | 225,000 | 仕掛品 | 225,000 |
シングルプランでは、材料を仕掛品に振り替える時点で標準原価を使います。そのため差異は材料勘定の側で生まれます。
シングルプラン:材料の消費(単位:円)
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 仕掛品 | 2,850,000 | 材料 | 2,842,000 |
| 数量差異 | 50,000 | 価格差異 | 58,000 |
不利の数量差異は借方、有利の価格差異は貸方に入り、借方2,900,000円=貸方2,900,000円で一致します。月々の原価差異は、会計年度末に原則として売上原価に振り替えます。不利差異は売上原価に加算し、有利差異は減算します。この処理を売上原価加減法といい、出題区分表でも2級の範囲に含まれています。動画では、1級の論点である修正パーシャルプランを含めた3方式の比較も扱っています。
▶ 動画で確認する(6:07〜 3方式の比較──どこに差異が出るか)
よくある間違いと、なぜ間違えるのか
- 標準消費量を完成品数量で計算する:「標準原価=完成品の原価」と思い込むのが原因です。差異の相手は当月投入量の標準原価です。標準消費量も標準作業時間も、当月投入量(加工費は換算量)に掛けて出します。
- 引き算の順番が問題ごとに変わる:「実際−標準」で計算すると符号が逆になり、有利と不利を取り違えます。金額はいつも「標準側−実際側」で引き、式の形が違う操業度差異も金額で確かめます。
- 価格差異に標準消費量を掛ける:右上の角をどちらに入れるかがあいまいなのが原因です。価格差異・賃率差異は実際数量、数量差異・時間差異は標準単価を掛けます。
- 操業度差異に標準配賦率を掛ける:操業度差異は固定費の回収不足(または回収超過)なので、掛けるのは固定費率だけです。
- パーシャルとシングルを逆に覚える:名前だけを丸暗記しているのが原因です。パーシャル(部分的)は仕掛品勘定の一部(貸方)だけが標準、シングルは借方も貸方も標準で一本、と意味から思い出します。
練習問題で確認する
練習問題1
標準単価400円/kg、実際単価420円/kg、実際消費量1,000kgのとき、価格差異を計算し、有利・不利と借方・貸方を答えなさい。
練習問題1の解答と解説を見る
価格差異は(400−420)×1,000kg=−20,000円で、不利差異(借方差異)です。標準より高く買ったので、原価が多くかかった分が借方に残ります。実際単価から先に引くと+20,000円になり、有利と誤判定するので注意してください。
練習問題2
標準賃率1,200円、実際賃率1,150円、標準直接作業時間900時間、実際直接作業時間950時間。賃率差異と時間差異を計算しなさい。
練習問題2の解答と解説を見る
賃率差異は(1,200−1,150)×950時間=+47,500円で有利差異です。時間差異は(900−950)時間×1,200円=−60,000円で不利差異です。合計−12,500円は、標準原価1,080,000円(900時間×1,200円)と実際原価1,092,500円(950時間×1,150円)の差に一致します。賃率差異には実際時間を掛けます。
練習問題3
製造間接費は公式法変動予算で、変動費率200円/時間、月間固定費予算600,000円、基準操業度1,500時間。当月の標準操業度1,400時間、実際操業度1,450時間、実際発生額900,000円。能率差異は標準配賦率で計算するものとして、3分法で分析しなさい。
練習問題3の解答と解説を見る
予算差異−10,000円(不利)、能率差異−30,000円(不利)、操業度差異−20,000円(不利)です。固定費率は600,000÷1,500時間=400円、標準配賦率は200+400=600円です。予算許容額は200×1,450+600,000=890,000円です。
予算差異は890,000−900,000=−10,000円です。能率差異は(1,400−1,450)×600=−30,000円、操業度差異は(1,450−1,500)×400=−20,000円です。合計−60,000円は、標準配賦額840,000円(1,400時間×600円)と実際発生額900,000円の差に一致します。
まとめ
- 差異は「標準側−実際側」で計算する。マイナスは不利差異(借方)、プラスは有利差異(貸方)
- 比べる標準原価は当月投入量ベース。加工費の標準は換算量から出す
- ボックス図は内側が標準、外側が実際。右上の角は価格差異・賃率差異に含める
- 製造間接費は予算・能率・操業度の3分法。操業度差異は固定費率だけを掛ける
- パーシャルプランは仕掛品勘定に差異が出る。シングルプランは材料などの勘定に差異が出る
次の一歩として、簿記2級の無料講義 全66本の一覧から標準原価計算と差異分析の講義を続けて見ておきましょう。勘定記入と差異分析を、ひと続きで練習できます。当月投入量の換算量があいまいな人は総合原価計算のボックス図で復習できます。工業簿記の最後の論点は直接原価計算とCVP分析です。
動画で学ぶ|標準原価計算と差異分析の講義
この記事の講義(簿記2級 #58・8:33)
8:33【簿記2級】ボックス図で差異分析|価格差異・数量差異・賃率差異・時間差異差異分析の全体像と大原則 / 通し設例 ── この数字で最後まで / 直接材料費差異のボックス図 / 有利差異と不利差異の判定▶ YouTubeで見るあわせて見たい動画
よくある質問
有利差異と不利差異はどう判定しますか?
「標準−実際」で計算し、プラスなら有利差異、マイナスなら不利差異です。有利差異は貸方差異、不利差異は借方差異とも呼びます。引く順番を固定しておけば、どの差異でも同じ判定で済みます。
パーシャルプランとシングルプランの違いは何ですか?
仕掛品勘定の借方に書く当月製造費用が、パーシャルプランは実際原価、シングルプランは標準原価です。そのため原価差異は、パーシャルプランでは仕掛品勘定に、シングルプランでは材料・賃金・製造間接費などの勘定に出ます。
価格差異と材料消費価格差異は同じものですか?
計算の形は同じですが、比べる相手が違います。価格差異は標準原価計算で標準単価と実際単価を比べたもの、材料消費価格差異は実際原価計算で予定価格と実際価格を比べたものです。どちらも差に実際消費量を掛けます。
能率差異は変動費率と標準配賦率のどちらで計算しますか?
問題文の指示に従います。標準配賦率(変動費率+固定費率)で計算する方法と、変動費率だけで計算して固定費部分を操業度差異に含める方法があります。どちらでも3つの差異の合計は同じです。
原価差異は最後にどう処理しますか?
会計年度末に、原則として売上原価に振り替えます(売上原価加減法)。不利差異は売上原価に加算し、有利差異は売上原価から減算します。月々の差異は、年度末まで各差異の勘定に集計しておきます。
執筆:ぼきの森学校 編集部 監修:公認会計士・税理士
情報確認日:2026年9月24日(試験要項・合格率は 日本商工会議所の公式サイト、改定内容は 出題区分表のページ でご確認ください)
記事中の設例・金額・想定ケースは解説のために作成したもので、実在の会社・人物・取引とは関係ありません。
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