「簿記3級は100時間で受かる」。学習を始めるとき、多くの人がこの数字を目にします。ところが日本商工会議所は、3級の標準学習時間を公表していません。よりどころのない数字に合わせて計画を立てると、途中で「自分は遅れている」と感じて手が止まります。この記事では、公式に確認できる試験の形式(商業簿記3題以内・60分・合格基準70%以上)から必要な学習量を積み上げ、1日1時間・1日2時間・週末集中の3パターンの週次スケジュールに落とし込みます。読み終えるころには、あなたに合う進め方が決まります。
この記事の内容を動画で解説しています(簿記3級 #00・5:26)
5:26【簿記3級 #00】試験の概要と最短ルート|60分の配点と解く順番試験は60分。第1問 仕訳15題45点/第2問20点/第3問35点、70点で合格 / 解く順番は 第1問 → 第3問 → 第2問。配点の大きい順に取り切る▶ YouTubeで見る「勉強時間100時間」に公式の根拠はない
結論から書きます。日本商工会議所の3級ページに書かれているのは、試験科目が「商業簿記3題以内」、試験時間が「60分」、合格基準が「70%以上」ということだけです。標準学習時間も、大問ごとの配点も、公式には示されていません。
つまり「100時間」は、各社や各サイトが経験則で置いた目安です。目安そのものが悪いわけではありません。問題は、根拠を知らないまま数字だけを持つと、時間を消化することが目的にすり替わってしまう点にあります。3時間机に向かっても、同じページを眺めていただけなら学習は1ミリも進んでいません。
ポイント
公式に確認できるのは「商業簿記3題以内・60分・70%以上」まで。学習時間の目安は自分の進み方から逆算して作るほうが、他人の数字を借りるより正確です。
試験の形式から必要量を積み上げてみる
編集部で、3級の学習を「論点の数×1論点あたりの作業量」で積み上げ直してみました。3級の商業簿記は、大きく分けると15前後の論点に整理できます。簿記の基本ルール、現金と預金、商品売買、掛け取引、貸付けと借入れ、有形固定資産、貸倒れ、資本、費用収益の繰延べと見越し、伝票、試算表、決算整理、精算表、財務諸表、そして帳簿です。
| 作業 | 1回あたり | 回数 | 小計 |
|---|---|---|---|
| 論点のインプット(読む・書く) | 30分 | 15論点 | 7.5時間 |
| 論点ごとの基本問題を解く | 60分 | 15論点 | 15時間 |
| 仕訳の反復(毎日15分) | 15分 | 60日 | 15時間 |
| 本番形式の問題を解いて直す | 90分 | 10回 | 15時間 |
| 間違えた論点のやり直し | — | — | 15〜25時間 |
| 合計 | — | — | 67.5〜77.5時間 |
ここに、教材選びや申込みなどの周辺作業と、途中で必ず起きる中断のロスを加えると、80〜110時間の幅に収まります。よく言われる「100時間」は、この幅の上のほうにあたります。数字が近いのは偶然ではなく、積み上げれば誰でも同じあたりに着地するからです。大事なのは、あなたが「15論点×2回転」を終えられているかどうかであって、机に向かった合計時間ではありません。

時間ではなく「回転数」で管理すると失速しない
独学が止まる典型的な形は、こうです。第1章から丁寧に読み始め、現金預金あたりで理解が怪しくなり、戻って読み直し、また止まる。3か月経っても半分まで来ていない。原因は能力ではなく、管理する単位を「時間」にしていることです。
おすすめは、進み方を「回転数」で数える方法です。1回転目は「全論点をとにかく最後まで通す」。理解できない部分は付箋を貼って飛ばします。2回転目で付箋の部分だけを潰し、3回転目で本番形式に移ります。1回転目に完璧を求めないことが、独学でいちばん効きます。

想定ケース(解説のための設定です。実在の人物ではありません)
会社員のAさんは4月にテキストを買い、平日の夜に30分ずつ読み進めました。8月の時点で進んだのは全体の4割。理由は「商品売買の三分法が腑に落ちないので先へ進めなかった」ことでした。ここでAさんが1回転目のルールを変え、分からない論点に付箋を貼って最後まで通したところ、9月末には全論点を一巡できました。三分法は、決算整理の「売上原価の算定」を見た瞬間に理解できたそうです——という展開は珍しくありません。前の論点が、後ろの論点を学んで初めて分かることが簿記にはよくあります。
1回転目・2回転目・3回転目で何をするか
| 回転 | 目的 | やること | やらないこと |
|---|---|---|---|
| 1回転目 | 全体像をつかむ | 全論点を最後まで通す。基本問題は1問だけ解く | 暗記・完璧な理解・応用問題 |
| 2回転目 | 穴を埋める | 付箋の論点を集中的に。仕訳を手で書く | できる論点の反復 |
| 3回転目 | 時間内に解く | 本番形式を60分で解き、間違いを論点別に記録 | 新しい教材に手を出すこと |
3か月で仕上げる週次スケジュール(3パターン)
ここからは実際の割り振りです。3パターンとも、合計はおおむね80〜100時間に収まるように組んでいます。自分の生活に近いものを1つ選んでください。
パターン1:平日1日1時間+土日2時間(週9時間・約11週)
| 週 | 内容 | 到達点 |
|---|---|---|
| 1〜2週 | 簿記の基本ルール/仕訳の5要素/現金・預金 | 借方と貸方を迷わず書ける |
| 3〜4週 | 商品売買(三分法)/掛け取引/返品・値引き | 仕入・売上・売掛金・買掛金が動かせる |
| 5〜6週 | 有形固定資産/貸倒れ/貸付け・借入れ/資本 | 減価償却の計算ができる |
| 7週 | 試算表・伝票・帳簿(1回転目終了) | 全論点を一巡 |
| 8〜9週 | 決算整理(繰延べ・見越し・売上原価)/精算表 | 精算表を最後まで埋められる |
| 10週 | 本番形式を3回(60分で解く練習) | 時間配分が決まる |
| 11週 | 本番形式を4回+間違いだけ潰す | 70%を安定して超える |
パターン2:平日1日2時間(週10時間・約8〜9週)
まとまった時間が取れる人向けです。1〜4週で全論点を一巡し、5〜6週で決算整理まで、7週目から本番形式に入ります。ペースが速いぶん、仕訳の反復(1日15分)を別枠で必ず確保してください。読んだ量に対して手を動かす量が足りないと、本番で手が止まります。
パターン3:週末集中(土日で6時間・約13〜15週)
平日にまとまった時間が取れない人向けです。土曜に新しい論点、日曜に前週の復習と問題演習、と役割を分けます。平日は通勤時間などに仕訳を1日5問だけ確認します。週末型は間隔が空くぶん忘れやすいので、「平日の5問」を省略すると成立しません。ここだけは死守してください。
統一試験とネット試験、どちらを狙うかで計画は変わる
3級には、年3回の統一試験(ペーパー)と、各会場が独自に日程を設定する随時のネット試験があります。日本商工会議所が公表している合格率を並べると、両者の差がはっきり見えます。
| 方式 | 回・期間 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|---|
| 統一試験 | 第173回(2026年6月14日) | 14,359名 | 4,854名 | 33.8% |
| 統一試験 | 第172回(2026年2月22日) | — | — | 33.6% |
| 統一試験 | 第171回(2025年11月16日) | — | — | 34.5% |
| ネット試験 | 2025年4月〜2026年3月 | 276,477名 | 112,797名 | 40.8% |
ネット試験のほうが合格率は高めですが、「問題がやさしい」と結論づけるのは早計です。ネット試験は日程を自分で選べるため、受験者が仕上がったタイミングで申し込めます。統一試験は日程が先に決まっているので、間に合わないまま受ける人も一定数含まれます。この構造の違いが、数字の差の一因と考えられます。
学習計画の立て方としては、次のように使い分けると無理がありません。締切があるほうが動ける人は統一試験を先に申し込む。自分のペースで仕上げたい人はネット試験にして、模擬で70%を安定して超えた週に会場を予約する。詳しい日程と申込みの手順は、簿記3級の試験日と申込方法をまとめた記事で確認できます。
独学がうまくいかない5つの原因と、その対処
1. 読むだけで手を動かしていない
簿記は、読んで分かることと書けることの距離が大きい科目です。テキストの仕訳例を見て「分かった」と思っても、白紙に自分で書くと勘定科目が出てきません。対策は単純で、1論点読んだらテキストを閉じて、例題を何も見ずに書くこと。これだけで定着はまったく変わります。
2. 1回転目で完璧を求めている
前述のとおりです。簿記は後ろの論点を学ぶと前の論点が分かる構造になっています。分からない場所は「今は分からない」と記録して先へ進むのが最短です。
3. 教材を増やしてしまう
不安になると新しい教材が欲しくなります。しかし教材を増やすと1冊あたりの回転数が下がり、どれも中途半端になります。テキスト1冊と問題集1冊、そして本番形式の問題集1冊。この3冊を3回転させるほうが確実です。
4. 決算整理を後回しにする
3級は商業簿記3題以内という構成で、決算に関する出題の比重が小さくありません。決算整理は論点がまとまっており、ここを飛ばすと得点源をひとつ失います。1回転目で軽くでも通しておくことが大切です。減価償却でつまずいた場合は、減価償却の仕訳を直接法と間接法で整理した記事を先に読むと戻りが早くなります。
5. 電卓を我流で打っている
60分という試験時間は、計算に迷う余裕がありません。GT(グランドトータル)やメモリー機能を使えるかどうかで、試算表や精算表の集計にかかる時間が変わります。使い方は簿記の電卓の使い方をまとめた記事で手順化しています。
あなたに合う進め方を選ぶ(判断表)
| あなたの状況 | おすすめ | 理由 |
|---|---|---|
| 平日に1時間確保できる | パターン1+統一試験 | 締切があるほうが継続しやすく、11週で間に合う |
| 平日に2時間確保できる | パターン2+ネット試験 | 仕上がった週に会場を予約でき、無駄がない |
| 平日はほぼ取れない | パターン3+ネット試験 | 期間を長めに取り、仕上がりで受験日を決める |
| 簿記にまったく触れたことがない | 簿記初級で足場を作る | 40分・選択式で、用語に慣れてから3級に入れる |
| 3か月後に転職の応募がある | パターン2+ネット試験 | 随時受験なので、最短で合格実績を作れる |
簿記にまったく触れたことがない場合の選択肢については、簿記初級とは何か・難易度と3級との違いをまとめた記事で、受けるべき人と飛ばしてよい人を整理しています。
まとめ
- 日本商工会議所は3級の標準学習時間を公表していない。「100時間」は経験則の目安
- 作業から積み上げると80〜110時間。管理すべきは時間ではなく「15論点×3回転」
- 1回転目は完璧を求めず最後まで通す。分からない論点には付箋を貼って先へ進む
- 締切で動ける人は統一試験、仕上がりで決めたい人はネット試験
- 教材は3冊まで。増やすより回転数を上げる
次の一歩は、今日この場でパターンを1つ選び、1回転目の終了日をカレンダーに書き込むことです。日付が決まった瞬間から、独学は「なんとなく続けるもの」ではなくなります。
次に読む
受験日を決める → 簿記3級の試験日と申込方法
仕訳を手で書く練習をする → 簿記3級の仕訳問題20問(解説つき)
教材を選ぶ → 簿記3級のテキストの選び方
総額を把握する → 簿記の独学にかかる費用
3級の記事をまとめて読む → 簿記3級カテゴリ
動画で学ぶ|簿記3級の勉強の進め方
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5:26【簿記3級 #00】試験の概要と最短ルート|60分の配点と解く順番試験は60分。第1問 仕訳15題45点/第2問20点/第3問35点、70点で合格 / 解く順番は 第1問 → 第3問 → 第2問。配点の大きい順に取り切る / 統一試験とネット試験の違い、直近の合格率 / 独学でつまずく典型パターンと、このシリーズの進め方▶ YouTubeで見るあわせて見たい動画
2027年4月以降に受ける人は、配点と出題範囲も変わります。簿記3級の配点変更(2027年4月から)で、受験時期ごとの準備を確認しておきましょう。
よくある質問
簿記3級は本当に独学で合格できますか?
可能です。3級は商業簿記のみで、試験時間は60分、合格基準は70%以上と公表されています。範囲が限られているため、テキストと問題集を回転させる形で十分に対応できます。ただし「読むだけ」では届かないので、手で仕訳を書く時間を必ず確保してください。
1日30分しか取れません。合格までどのくらいかかりますか?
1日30分だけだと週3.5時間なので、80〜110時間に届くまで単純計算で23〜31週かかります。現実的には、平日30分に加えて週末に2〜3時間まとめて取る形にすると、4〜5か月で仕上がります。期間が延びるほど忘却の影響が出るため、毎日の仕訳5問だけは切らさないことが条件になります。
ネット試験と統一試験ではどちらが受かりやすいですか?
公表されている合格率はネット試験のほうが高く、2025年4月から2026年3月のネット試験は40.8%、直近の統一試験(第173回)は33.8%でした。ただしネット試験は受験日を自分で選べるため、仕上がった人が受けやすい構造になっています。難易度そのものの比較として読むより、「自分のペースで受けられるかどうか」の違いとして捉えるのが実態に近い見方です。
テキストは何冊必要ですか?
テキスト1冊、論点別の問題集1冊、本番形式の問題集1冊の合計3冊で足ります。不安から買い足すと1冊あたりの回転数が下がり、どれも定着しません。3冊を3回転させるほうが、5冊を1回ずつ読むより確実です。
2027年度から出題範囲が変わると聞きました。今から始めても大丈夫ですか?
大丈夫です。日本商工会議所の告知によれば、2027年度適用の出題区分表は2027年4月1日から2028年3月31日までに施行される試験に適用されます。2026年度中に受験するなら、現行(2022年度適用)の範囲で学習して問題ありません。2027年4月以降に受ける可能性がある場合は、変更点を先に把握しておくと教材選びで迷いません。詳しくは2027年度の出題区分表改定をまとめた記事をご覧ください。
執筆:ぼきの森学校 編集部 監修:公認会計士・税理士
情報確認日:2026年9月6日(試験日程・受験料・合格率等は 日本商工会議所の公式サイト で最新情報をご確認ください)
「日商簿記」は日本商工会議所および各地商工会議所が実施する検定試験の名称です。本サイトは同会議所が認定・公認する教材ではありません。
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